売買・賃貸借などの不動産取引は、多くの方が経験する取引/契約であり、それだけにトラブルに巻き込まれる機会が高いものです。
特に不動産を活用して、賃貸等を運用されている方や、事業で事務所・工場・店舗等を賃借されている方等は、トラブルに巻き込まれる回数・確率も高くなります。
例えば、賃借人から修繕を求められた場合、オーナー負担なのか、賃借人負担なのかを賃貸借契約書の内容及び民法/借地借家法に照らして判断することになり、同一契約の物件が多い場合は小さな修繕の判断が不動産経営に大きな影響を与えることにもなりかねません。
また、平成28年の熊本地震後、建物の解体を判断された方、修繕を判断された方とその判断は様々ですが、特に熊本市のテナントビル等で賃借人とオーナー間での認識の差が復旧復興の伸展に連れて顕在化しているように感じます。
賃借人との交渉は不動産仲介管理業者に任せている方も多いとは思いますが、トラブル発生の報告を受けられたり、交渉/判断が必要となった場合は、交渉をされる前に事前の相談をお勧めします。
不動産売買のポイント
不動産売買は、取引額が高額になるため、慎重な判断が必要です。
不動産取引は、売買不動産の情報に接してから売買契約/決済いたるまで注意して頂きたいポイントがあります。
不動産を購入される際は、宅地建物取引業者(宅建業者)を介するケースが多いと思いますが、購入者自身でも注意すべき主なポイントをご説明します。
現地確認(現地・周辺環境の確認、欠陥の確認)
不動産を購入される場合、現地を確認されることが想定外のトラブルを防ぐためにも不可欠です。
現地で、土地であれば土地上の構築物、建物であれば賃貸の有無、管理の状況等の確認が必要です。また、熊本地震前に建築された建物であれば、熊本地震を経ていますので、損傷/修繕の状況の確認も必要です。
登記簿の確認
登記簿には、不動産の所有者をはじめとするその不動産に関する権利の状況が記載されています。
抵当権などがついていればその解除が必要となりますし、賃貸に出されている土地で借地権の登記がされていることもあります。売買交渉に入れば売主から説明はあることですが、事前の情報収集として不動産の権利状況を確認すること及び売主の説明との整合性の判断のためにも登記簿の確認は必須です。
重要事項説明の確認
不動産を購入する際は、宅地建物取引業者(宅建業者)から不動産に関する法定事項(権利の内容等)である重要事項説明(「重説」と略されることも多いです)が必要とされます。
重要事項の説明に誤りがあった場合、売買の取消等も可能となることもあり、重要事項の確認も必要です。
例えば、土地/建物を買われて、将来立替を予定されている場合、再築が可能か、再築建物への制限などを用途地域等の説明を受けて、事前に確認しておく必要があります。用途地域は、各地方自治体で販売している都市計画図で確認することもできますので、将来の土地活用のためにも必ず説明/確認を求めて下さい。
また、熊本は、熊本地震前を経ており、耐震性能についての関心も高いと思います。旧耐震基準時代の建物であれば耐震診断を受けているかどうかも説明事項となっています。
この他にも重要事項説明の直接対象となっていない事項でも、疑問/不安に思われた点は、説明を求められて、説明内容を文書でもらうようにされて下さい。
申込証拠金や手付の確認
不動産売買は、高額な金銭が動くため、売買契約の拘束力を高めるためにも申込証拠金や手付金が通常設定されています。
申込証拠金は、購入希望者の意思確認をする趣旨が強いですが、手付金は金額が高額になるほど契約を安易に解約できないようにする趣旨が強くなります(一方、手付金を放棄しさえすれば解約可能という面もあります)。
申込証拠金や手付の約定について、その意味を十分に理解されてから契約/支払いをされて下さい。
まとめ
主に不動産を購入する場合を前提にご説明しましたが、不動産売買契約を結ぶ際には、不動産に関する権利・情報について十分な説明を受ける必要があります。宅建業者の仲介を受ける場合は、宅建業者にはそれらの説明義務がありますので、納得ができるまで十分な説明を求めてください。
弁護士に相談/依頼することで、売買契約の準備段階から契約書作成までアドバイス・サポートをさせて頂きますし、既にトラブルとなっている場合は、その解決に向けてお手伝いをさせて頂きます。
高額な取引であるからこそ、慎重/冷静な判断をするためにも一度ご相談されることをお勧めします。
不動産賃貸借におけるポイント
不動産賃貸借は、継続的に不動産から収益をあげることにメリットがありますが、一方で賃借人とトラブルになると思わぬ費用が発生したり、期待した収益が上がらない事態が生じます。
主に貸主側からの視点で不動産賃貸借契約におけるポイントを御説明いたします。
契約締結時のポイント
不動産賃貸借契約を締結する際に、当事者間の特約の効力が問題となります。
特約は主に契約期間満了・解除等の契約終了時に問題が顕在化します。
特に問題となる特約は、借主に不利な特約です。過去に様々な訴訟で敷金返還に関する特約等で争われてきました。
現在既に入居している賃借人との特約の変更等は現実問題として難しいところですが、既に使用している契約書の特約の効力を確認しておくことで、無用なトラブルを回避することも可能となります。
現在使用している契約書の特約の法的効力について、トラブルになる前から確認しておく必要があります。
主な特約としては、原状回復に関する特約になり、買主に全て負担させるという特約はその記載内容によっては効力を生じないことも多くなります。
賃料の変更
契約期間中に一方的に賃料の増額をすることはできません。
賃貸人において賃料の増額を求める場合は、通常、賃借人が同意することは少ないでしょうから、後日訴訟等になった場合に増額した賃料を請求した時期を明らかにするために請求を内容証明郵便で行います。
なお、賃借人から減額を求める場合も、減額を求めた時期を明らかにするために請求を内容証明郵便で行います。賃借人の場合は、新しい賃料の結論が出るまでは現賃料の支払義務を免れるわけではありませんので従前の賃料の支払を継続しなければなりません。
契約の更新
定期借地・定期借家等を除き、一般の借地・借家契約は、期間の定めがあっても当事者が異議を述べない限り期間満了時に更新されます。
貸主が更新を望まない場合を一般に更新拒絶といいますが、更新しないことに対する正当な理由が必要となります。この正当な理由の一要素として立退料が問題となり、賃貸人・賃借人間の対立が先鋭化します。
敷金の返還
敷金の返還額、裏を返せば原状回復の範囲が問題となります。民間の賃貸住宅においては、国土交通省が策定した原状回復に関するガイドラインに沿った取り扱いを行います。この点、ガイドラインを超えて賃借人に負担させる特約を定めているケースもありますが、特約を根拠に賃借人に原状回復費用を負担させるには高いハードルがあり、大半の特約がこのハードルを超えていないと考えます。
賃料の回収
不動産経営にとって、毎月予定した金額の賃料収入を得ることは当然の前提です。この当然の前提が崩れ、それが継続した場合、収益の計画が大きく狂うことになります。初回の滞納時から適切な対応をとることが滞納額の増大を抑止するために必要と考えます。
賃料の滞納が発生した場合、①書面(内容証明)での督促、②連帯保証人への請求、③公正証書・即決和解手続での合意、④支払督促等の法的措置、⑤解除による明渡しを回収手段として考えることになります。
書面での督促
賃料を滞納した借主に対して、書面(特に内容証明郵便)で督促をすることで、賃貸人が賃料滞納を容認しない意思であることを賃借人に認識してもらい、賃料支払を促すことになります。
また、賃料の滞納が続き、滞納期間が解除事由に該当し、督促しても賃料を払わなければ契約を解除したいときは、支払期限を定めて、期限内に支払わなければ契約を解除するとの通知(停止条件付きの契約解除通知)を行えば、支払期限を過ぎた後に改めて解除通知を送ることを省略できます。
連帯保証人への請求
連帯保証人への請求は、賃貸借契約が継続している間は、賃借人からの回収の効果も期待できます。一般に賃借人は連帯保証人が支払う事態を避けたいと考えるからです。また、滞納が断続的に続く賃借人で退去をして欲しいという場合は、連帯保証人から退去を促してもらうことも期待できます。
なお、長期間滞納している賃借人がいた場合に、連帯保証人に長期間滞納分を突然請求すると、長期間放置した責任を追求される可能性もあります(契約書上、連帯保証人に対する通知義務を定めていない限り、それをもって連帯保証人の責任を免れる可能性は低いです)。このような事態を未然に回避するためにも連帯保証人に対する請求は適切な時期にしておく必要がありますし、その実益も高いです。
公正証書・即決和解での解決
賃貸借契約を継続してもいいが、今後の賃料の滞納の懸念がある場合は、公正証書を取り交わしたり、即決和解で解決をはかることもあります。公正証書は公証人役場において強制執行認諾条項を盛り込んだ上で、賃料の不払いがあれば給与等の差押さえが可能な内容で合意をすることが可能となります。しかし、公正証書では建物の明け渡しについての強制力(執行力)までは認められないので、明渡しまで定める場合は裁判所の即決和解手続をとることも考えられます。なお、両手続きともに賃借人が合意していることが前提ですので、事前に賃借人と内容についての交渉が必要となります。
支払督促・訴訟等の法的措置
滞納賃料の支払を促しても支払が期待できない状態であれば、支払督促手続や訴訟の提起を検討します。未払い賃料の滞納額が60万円以下であれば、少額訴訟という比較的簡易な手続で訴訟を提起することも可能です。
裁判所を利用した法的措置をとることで、相手方の給与等の差押さえを行う(強制執行)ことが可能となります。
明け渡し請求
慎重な判断・手続が必要
賃料の回収が不可能と思われる場合は、賃貸借契約を解除し、明け渡しを求めるほうが、今後の賃料回収不能による損失・リスクを回避するためには無難といえます。
ただ、明け渡しを求める場合であっても賃貸借契約に法的手続をとらずに賃借人に無断で物件内に立ち入ったり荷物を搬出したりすると違法とされるおそれが高いので、慎重に行う必要があります。
賃料の不払いが続き、解除・明け渡しを求めても音信普通のような状態になった場合、法的手続きをとらざるを得なくなりますので、普段からの未払い賃料の管理が重要ともいえます。
解除事由の調査
賃貸物件の明け渡しを求める場合は、その前提として賃貸借契約を解除しますので、解除事由を満たしているどうかを調査します。
仮に1回でも賃料の不払いがあれば賃貸借契約を解除できるとの規定があっても、裁判例上、信頼関係を破壊する程度の債務の不履行が必要とされており、賃料の滞納も1か月分程度では解除は認められない可能性があります(一般には3回程度以上の未払いが求められます)。その他の解除事由(用法違反:住居外の使用、ペット、近隣紛争等)の場合は、その事実関係の有無と解除の可否の調査を行います。
解除及び明渡しの通知
賃貸借契約の解除事由があると判断できる場合、賃借人に対して、解除事由を記した上で、賃料の場合は支払期限内に支払いがなければ解除するとの通知を発送します。
占有移転禁止の仮処分
賃貸物件を賃借人以外の者が使用していたり、第三者への占有の移転が予想できるような場合(特にテナント物件など)、占有移転禁止の仮処分を行うこともあります。賃借人以外の者が使用している場合、仮に賃借人に対して当該物件を明渡すよう命じる判決を取得しても、その第三者には判決の効果が及ばない可能性があります。この場合、賃借人への訴訟提起が無駄になりますので、そのおそれを回避するために仮処分を検討することになります。
賃料・建物明け渡し請求訴訟
賃借人が任意に建物を明渡さない場合は、建物明渡し請求訴訟を提起します。その際は、未払い賃料及び明け渡しまでの賃料相当損害金(賃貸借契約書の規定に沿って算定)を請求します。
賃借人が所在不明の場合は、公示送達という手続を介して判決を取得することになります。
強制執行
建物明け渡し請求訴訟で勝訴判決を得ても、賃借人が判決に従わずに退去しない場合は、強制執行の手続をとる必要があります。
強制執行を行う場合は、裁判所の執行官が明渡しのための期間を催告し、退去しない場合は、明渡しの断行を行うことになります。
賃借人が行方不明などの場合は断行に至るケースもありますが、上記の各手続進行するにしたがって時間を要することになりますので、できるだけ早期に賃料の不払い等の債務不履行を行いがちな賃借人に対する適切な対応が求められます。