経営危機の対応
会社の業績が順調に伸びている時期は、経営者にとって最も自身の能力・経験を発揮できますが、財務状態が悪化し資金繰りに窮するなどの経営危機に陥った場合、適切に対処することが可能な経験を持っている経営者は多くはありません。
また、経営危機時には、目の前の資金繰りに迫られ、冷静な判断を欠き、高利の借入や支払いの充てのない仕入れをするなどして、債務を増大させた上に長年の取引先の信用を失い、再建が困難となることもでてきます。
経営危機に陥った際に、冷静に自社の事業の現状と将来性を分析することは極めて重要ですが、雇用する社員・家族、会社への思い入れからもなかなか難しいことが現状です。
当事務所は、破産管財人に選任されるなどして多くの企業の倒産に接してきましたが、倒産(破産)の決断にいたるもっと前の時期にとりうる選択肢があり、その時に適切な選択をしていれば倒産(破産)を回避できたのではと思うこともありました。
経営危機に陥った際には、下の4つの選択肢等を念頭に方策を検討することになります。
1)リスケジューリングによる自主再建
一般にリスケと呼ばれる方法です。
金融機関からの融資に関して、返済条件の変更・繰り延べの交渉を行うことです。
経営者の中には、金融機関からの借入は絶対であり、返済条件の変更はありえないとおっしゃる方もいらっしゃいますが、客観的な資料・見通しをもとに交渉を行うことで、変更に応じてもらえることもあります。
このリスケに成功すれば、通常の取引先には迷惑をかけずに資金繰りの改善が可能となります。
2)事業・人員の整理・事業再編
経営危機の原因として不採算事業の経費があがる場合、その不採算事業から撤退し、人員削減、事業譲渡・会社分割等を行い、事業の再編を行う方法です。
社員の解雇を伴う場合は、労務上のリスクはありますが、取引先等に迷惑をかけずに経営の再建が図れます。
3)民事再生法の活用
民事再生は、法的整理の一手法です。倒産ではなく事業を継続するために用います。
民事再生法は、裁判所を用いることで会社の状況が公になり取引先・消費者の信用を損なうリスクはありますが、債務の一律カットによる財務状態の劇的な改善をもたらすことが可能であり、取引先に対して再生手続中も誠実な対応を続けることで信用も回復・維持し、比較的短期間で会社の再建が実現することもあります。
また、個人事業者などの小口の取引先については、大口債権者とは異なる取り扱い(100%弁済等)を計ることも可能です。
4)会社破産(法人破産)
事業を継続しながらの再建が困難と判断された場合は、破産手続を選択せざるを得ません。経営者の中には、破産手続をとるなんて無責任でとても選択できないとおっしゃる方もいます。
しかし、再建が困難と判断した場合は、可能な限り会社の預金等資産が残っている状態で決断をする方が、社員に対する解雇予告手当等の補償も可能であり、社員とその家族を預かる経営者としての責任を果たすこともできます。
決断を先延ばしすることで、解雇予告手当てはおろか給与の未払いまで発生し、経営者自身の資産も全て失う状況にまで至ると、破産手続きを経ての再出発が過酷な状況ともなりかねません。
早めに相談されて、決断する時期(条件)を踏まえて経営再建に取り組まれれば、仮に再建が上手くいかなかったとしても、被害を最小限に抑えて再出発をすることも可能となります。できるだけ早い段階でご相談ください。
任意整理による自主再建
任意整理とは、裁判所の関与がない状態で、債務者主導で再建計画を債権者に示し、債権者の同意の下、会社の再建をはかる方法です。
債権者と債務者間で交渉するリスケや中小企業再生支援協議会関与による私的整理等があります。
任意整理によって自主再建を達成できれば、会社の信用・価値の低下をくい止めることが可能ですが、あくまでも債権者の同意・理解が必要となりますので、任意整理を選択するかどうかは慎重に検討する必要がありますし、仮に同意・理解を得られなかった場合の選択肢も考慮しておく必要があります。
まず、交渉期間中(3ヶ月から6ヶ月程度)に資金繰りがショートしてしまうと、そもそも再建自体危うかったと判断されますので、ある程度の資金繰りの目処がついていることが必要です。
次にメインバンクや主要な取引先の支援を得られるかも重要です。メインバンクや主要な取引先の支援を得られないのであれば、他の債権者の信用を得ることも困難です。
一方で、メインバンク・主要な取引先の支援があれば、他の債権者の同意を促す効果もあります。
また、任意整理は、対象債権者との交渉が必要であり、対象債権者が多数にのぼり、対象債権者間で利害の対立があるなど、対象債権者間の調整が困難な場合は適しません。
さらに、任意整理手続においては、経営危機に陥った現状及び原因の分析、分析結果から導かれる事業再建計画を立案し、債権者に説明をする必要があります。
任意整理による再建は困難を伴いますが、説得力のある再生計画を作ることができ、会社に計画を実施する意欲・能力があれば、債権者の同意を得ることも可能になります。
任意整理による再建には、専門家である弁護士のサポートが必要と考えます。当事務所は、依頼者の顧問税理士・会計士又は当事務所と協力関係にある税理士・会計士等の専門士業と協力して再建に取り組みます。
民事再生
民事再生手続は、債務超過・返済不能等で経営危機に陥った企業が、裁判所を利用して再建を図る手続きです。
民事再生の最大のメリットは、事業を継続しながら、債務を大幅に圧縮できることにあります。民事再生では、再生計画を定めますが、その計画の中で従来の債務は圧縮された上で原則10年以内で分割返済することになります。
民事再生は、債権者の個別同意が必要な任意整理と異なり、債権者及び債権額の過半数が賛成すれば再生計画が認められますので、債権者の一部に反対する方がいても再建が可能になります。
民事再生手続は、債務を圧縮した上で、事業を継続することになりますから、事業自体が継続に適したものか、営業利益があがっていることが極めて重要になります。
再生手続を選択した時点で営業利益が黒字であればそれに越したことはありませんが、仮にそうでなくても、再生手続中に経費節減等で黒字化できるかの判断が求められます。
再生手続の申立をすることで会社の信用不安がおこったり、売掛金の入金が止まった取引先からの取引停止なども生じますので、申立時点で当面の資金繰りが可能な資産があることも必要です。
当事務所では、ご相談頂いた時点で、当面の資金繰りを整理し、手続選択の適否・時期を判断します。事業自体が黒字でも、再生申立後の一定期間の資金繰りの目処がたたないために再建が困難になることだけは避けたいと考えます。
債務負担等による資金繰りに不安を感じた場合は、早い段階でご相談ください。
会社の破産・倒産
破産だけは避けたい。
起業して育ててきた会社、父から引き継いできた会社を終わらせたくない、その気持ちは痛いほどわかります。
しかし、状況に応じて営業をやめる決断をすることも経営者に課せられた責任です。
その責任を全うされ、経営者・経営者の家族、社員・社員の家族の生活の再建のきっかけをつかめるよう皆様に寄り添いサポートすることが弁護士の役割と考えています。
破産という手続は、生活を再建するための手続であり、選択したら全てが終わりとなるわけではありません。破産された後に起業される方もいらっしゃいますし、勤めに出られて安定した生活を得ることも可能です。
もちろん破産申立にあたって廃業する場合、社員は全員解雇せざるを得なくなりますが、会社に残された預金から給料・解雇予告手当てを用意したり、未払賃金立替払制度の利用申し出をスムーズに行えるよう手当てを行い、社員の生活を可能な限り保護することも可能です。
破産(廃業)の決断は、経営者にとって耐え難い苦しみだとは思いますが、決断を先延ばしにすると状況がより一層悪化してしまいますし、大切な家族・社員をも路頭に迷わせることになりかねません。
経営危機の中、将来の展望がみえないとき、経営者としては、経営状況を率直に伝え、相談できる相手もおらず精神的に追い詰められていきます。
早めに相談いただき、選択肢と選択した結果の見通しをお話しすることで、出口が見えない状況から少しでも前に進んでいただけたらと考えています。
相談をされることは、ご自身だけでなく、家族・社員全員のためでもありますので、お悩みのときはできるだけ早くご相談ください。