事業承継 を行う方・事業承継 を受ける方へ
1.事業承継対策の必要性
近年、熊本の経済を支えてきた中小企業の経営者の高齢化が進みつつある中で、労働人口の減少も伴い、後継者の確保や後継者への円滑な事業承継の準備が十分にできず、紛争に発展したり、会社の業績が悪化してしまうケースがでてきています。
事業承継といえば相続税等の税金の問題がまずあがりますが、税務だけでなく、会社の支配権であったり、従業員の円滑な引継ぎ等会社の物的・人的基盤の維持・発展に不可欠な問題が出てきますので、事前に十分な準備が必要です。準備不足の結果、廃業を余儀なくされることもありますし、廃業も一つの選択肢ではありますが、廃業(清算)するにあたっても関係者に混乱を与えたり負債が残らないように十分に準備することが求められます。
会社の代表者とその家族、社員のためだけでなく、取引先・顧客、関係先等熊本の地域経済・社会にとっても有用な存在です。事業承継を的確に行い、次代につなげていくことは、現代表者の責務ですし、それを引き継ぐ次代の経営者も引き継いだ事業を維持・発展させるために現代表者との協同が求められます。
「事業承継?まだ大丈夫」と思っていませんか?
事業承継の準備を後回しにしていた結果、典型的には下のような問題が発生します。
- 1人株主の社長の判断能力が低下したケース
1人株主兼社長のワンマン経営の会社で、相続人の資格のある後継者に事業承継を行わないまま社長が病気等で判断能力が低下した場合、会社の意思決定機関が麻痺してしまいます。会社の意思決定機関の権限委譲が行えず、機能不全に陥ってしまいます。
将来を見据えて、後継者を選定したのであれば、計画的に権限委譲を行うことが求められます。
- 代表者の交代は行ったが権限の委譲が行われなかったケース
会社の代表取締役は後継者に交代したが、先代が未だ株式の過半数を持ち、会社の実質的経営者として君臨している場合、会社の意思決定が二重になりますし、経営方針を巡って紛争が生じかねません。加えて社員も長年実権を握っている先代の意向を受けるため、社内の統率も問題となります。権限委譲は形式的に行うだけでなく、会社の組織・人事を含め実質的にも行う必要があります。
- 後継者に事業用資産を相続させることができなかったケース
会社の後継者はいるものの遺言等を行わないまま先代が亡くなり、相続人間で紛争となり、会社の事業継続に必要な資産(不動産など)を売却せざるを得なくなることがあります。生前贈与・遺言書等を組み合わせる等して遺留分に配慮した相続対策を行う必要があります。
2.事業承継に求められる準備
事業承継における一番の問題は、特に親族承継(親子承継)の場合は、子に託す覚悟の実行性にあります。後継者が30代半ばを超え、事業承継を考え始めた場合、現代表者(親)60代前後が多いと思います。
60代の経営者の方は未だ現役で元気な方が多く、経験も積み経営者として充実している時期でもあります。
このため後継者への権限委譲が理解はしていてもついつい関与してしまい、権限委譲が遅々として進まないことがあります。
事業承継は即時に行うことは難しく、計画的に行う必要があります。
経営者としての体力等に自信がなくなってから行うのではなく、自信があるうちに行い、後継者との力量の差が明らかにあるうちに必要な知識・経験を教え、引き継いでいくことが重要です。
事業承継の方法と流れ
事業承継は、家族に引き継ぐだけでなく、状況や規模に応じて、事業承継の方法は数パターンに分かれます。
【1】親族内承継
親から子等への承継で非公開の同族会社では最も一般的な事業承継です。
しかし、近年は親族内承継の割合も徐々に低下しています。
【2】従業員等への承継
創業当時からの従業員であったり、幹部従業員として貢献・必須な人材に承継する方法です。
【3】社外への承継(M&A)
適切な後継者はいないものの事業体としての価値が十分にある会社で取引先・同業者・隣接業等に承継する方法です。
それぞれの方法ごとにメリット、デメリットがあるため、自社の実情・家族関係等に照らしながら事業承継方法と後継者を確定する必要があります。
【1】親族内承継
【メリット】
- 代表者家族・親族、会社関係者からの心情的な賛同を受けやすい。
- 代表者の個人保証の引き継ぎが容易。
- 後継者を早期に決定し、後継者教育等のための長期の準備期間を確保することも可能。
- 相続等により財産や株式を後継者に引き継がせることが可能。
【デメリット】
- 親族内に適任者がいるとは限らない。
- 承継に意欲のある後継者が複数いる場合、紛争に発展するリスクもある。
- 相続人が複数いる場合、後継者への資産の集中が難しいことがある。
【2】従業員等への承継
【メリット】
- 親族に適任者がいない場合、役員・従業員からの理解を得やすい。
- 役員・従業員士気向上が期待できる。
- 長期にわたって事業に携わってきた従業員であれば、経営・事業の一体性を維持しやすい。
【デメリット】
- 従業員に経営者としてのリスクを背負う意欲をもつものがいるとは限らない。
- 後継者に株式取得の資力がない場合がある。
- 個人債務保証の引き継ぎが問題となる。
【3】社外への承継(M&A)
【メリット】
- 後継者にふさわしい相手を広く求めることができる。
- 会社資産(株式等)を現金化できる。
【デメリット】
- 売却後の継続収入がなくなること
- 経営の一体性を損なうことがあること
- 希望の条件(価額、従業員の雇用)を満たす買い手を見つけられるとは限らないこと。
3.事業承継を受ける方(後継者の方々へ)
事業承継の手法には様々な方法があり、人的・物的承継のために計画的に進める必要があります。
当事務所の弁護士は同年代の若手経営者(後継者)の方々と交流がありますが、多くの方が20代・30代から会社を引き継ぐべく苦労・研鑽を重ねてきていることに接してきました。
事業承継は、一般に事業承継を行う側(親)が主体的に行うものであり、後継者を信じて計画的に事業承継を進め、自身の家族・従業員・関係先全てが安心できる体制を整えていくことがもとめられます。
しかし、一方で事業を引き継ぐ後継者は、引き継いだ後の会社をより発展させていく責任と機会を与えられることになります。
事業承継を計画的に行うことで、承継の過程で自身の新しい取り組みを先代の知識・経験を生かせるうちに試すことが可能となりますし、先代を支えた幹部社員を引き継ぐ新たな若手幹部社員の育成もスムーズに進みます。
事業承継を計画的に行うことは、事業承継を行う側にとっても必要ですが、事業承継を受ける側(後継者)にとっては、承継後の20年・30年といった次期経営者としての期間を充実させるために不可欠といえます。
5.法律顧問の活用について
事業承継を受ける側(後継者)にとって事業承継を計画的に行うことが不可欠と述べましたが、一方で、後継者から先代に承継を促すことは心理的にも容易ではありませんし、先代(特に親)の心理的な反発も予想されます。
そこで、現代表者と後継者に寄り添いかつ専門家としての関与を行う弁護士等の専門家が必要と考えます。
この点、事業承継対策だけのスポットで弁護士に依頼をすれば、導入時に一定の費用がかかるものの事業承継のスキームの計画・遂行は可能となります。ただ、事業承継はある程度の期間をかけて行うべきものであり、顧問弁護士制度を活用すれば、月々の顧問料の範囲内で、相当程度の対策ができることになります。また、既にいらっしゃる顧問税理士・顧問社労士の先生方と協同で多角的に承継に取り組むことが可能です(公認会計士等の他の専門家の紹介・協同も可能です)。
このほかにも雇用・債権管理・契約書・コンプライアンス等の事業承継対策以外(雇用などは関連もします)の法律問題への対応も併せて可能となります。
詳しくは、弁護士までご相談ください。